うるさく鳴り響く着信音に引きずり出されるようにして覚醒した意識。ぼやける視界。あ?何、なになに、何事。むくりと上体を起こし室内を見回しても、沙羅の姿は見当たらなかった。妙に静まり返った室内に安っぽい電子音だけが鳴り響く。

「……あ?」

 不意に鳴り止んだ着信音。しかしまた直ぐに鳴り始めたそれに思わず舌打ちをする。ベッドから下り床に転がる携帯を拾い上げると、ディスプレイに表示された名前にドキリと心臓が跳ねる。

「も、しもし」
『遅えんだよ馬鹿、電話くらい早く出ろ』
「……」

『今日帰ってこないなら先にそう言ってよ、晩御飯作っちゃったじゃん』
「え?」
『え? じゃねえよ死ね馬鹿』

「あー……悪い! 今すぐ帰る」
『……』
「急いで帰る」
『帰ってこないでいいよ、ウザい、もう切る』

 ブツッと一方的に終わらされた会話に思わず苦く笑う。耳に残る、玲奈の不機嫌丸出しの声。それですら可愛いと思ってしまうんだから、もはや病気に近い。
 溜め息を吐き乱れたベッドに視線をやれば、妙な罪悪感がじわじわと足下から這い上がってきた。ご機嫌取りに、ウイスキーボンボンでも買っていってやろうかな。






<溢れる罪悪感は見て見ぬふり>