▼愛してない、





 僕に背を向け隠すようにしてブラのホックを止める女の、骨っぽい後ろ姿をぼんやりと眺める。散々見せてたんだから今更恥ずかしがる必要ねえと思うけど。自然と漏れる溜め息。特有の疲労感に身を委ね、柔らかすぎる枕に頭を埋めた。毎度ながら、女の切り替えの速さには心底感心させられる。余韻に浸る事も無くテキパキと身支度を整えていく女に不満がある訳でも無ければ恋人同士のようなピロートークを期待している訳でもねえけど、何となく詰まらない気分になるのも事実。いや、不満なら溢れかえるほどあるか。

「……玲奈って誰?」

 振り返った女が、少し腫れぼったくなった瞳で僕を見る。ああ、こうやって見ると大して似てねえな。アルコールが入っていたせいか、この女と玲奈がダブって見えたのは。髪型と体型は似てない事もねえけど、他は全然違うじゃねえか。くそ。僕の馬鹿。

「片思い中の女の子」

「他の女と重ねて抱くなんて最低」

「……ごめんなさい」

 そりゃ、まあ、ファックかましてる最中に他の女の名前呼ばれたらキレるのが普通だよな。僕が悪い。いや、うん、それは分かってるけど。分かってはいるけど。

「沙羅」

「あ?」
「私の名前、ちゃんと覚えといてよね」

「……了解」

 ただの気紛れだった。いつもなら誘われても行かねえ合コンに顔出して、良い感じに酒が回ってきたところでガンガンアピールしてきていた女とホテル行って。どことなく、玲奈に似てるかななんて思いながら。

「一回切りにするのは惜しいと思わない?」

 いつの間にか身支度を終えていたらしい女、もとい沙羅がベッドの横に立った。それを見上げる僕に、沙羅はわざとらしいほどの笑みを浮かべる。

「連絡先交換しよ」

「勝手にどうぞ」

 多分、そこら辺に携帯転がってるはずだから。そう付け加えて目を閉じる。正直、もう疲れた。眠い。盛りのついた女との行為が、こんなにも体力を削り取るとは。あーどうしよ。寝る前にシャワー浴びてえな。ベタベタする、気持ち悪い。ワックスも落としたい。でも動ける気しねえし眠いしダルいし。どうしよ、ホント。
 むくむくと浮かんでくる不快な要素を無理やり封じ込め、ふわふわと迫り来る心地良い眠気に身を委ねた。