「そうか……ならいいんじゃ」

良造はワイングラスを口元に近づける。

そんな良造に、今度はマチ子が話しかけた。

「ところで旦那さん、ドイツ行きの話、あれどうなってるんです? いつ行かれるとか、聴いてないんですけど」

「そうだよ。お祖父ちゃん、本当に行っちゃうの?」

きららは、またも口にほおばりながら言った。

「ああ、それなんじゃが、もうチケットは取ってあってのう、来月の五日に行く事になっておる」

「五日ってったら、あらま、来週じゃないですか!」

「ああ、ま、荷物はたいしていらんから、たいした準備もないんじゃよ」

「お祖父ちゃん、本当に行っちゃうんだ」

「きららには淋しい思いをさせてすまんのう……」

淋しさなんかより会社の事が不安で仕方ないのであるが、そんなこと言ったところで始まらない。

きららは気を取り直してハンバーグをやっつけることに専念した。

それからは三人とも無口になり、ダイニングはナイフとフォークの音だけが響いていたのだった。