菜月はさっきから黙ったままだった。 どこか痛くしたのだろうか。 「なつ…き…?」 謝ろうと歩み寄り、私は菜月の髪を撫でようとした。 「…お姉ちゃんが…いけないんだよ」 私の手を払い除け、菜月はぼそりと呟いた。 ゆっくりと立ち上がった菜月は、そのまま部屋から出て行ってしまった。 後に残された私の背中を、気持ちの悪い汗が伝っていった。 耳には蝉のやかましい鳴き声と、菜月が階段を下りていく乾いた音だけが残った。