8年前、俺たちが10歳のころ、やっぱり夏休みに熱を出した里穂が俺の家に預けられることがあった。


「ごめんよ、風邪引き預けちゃって」


「いいのよ。気にしないで」


玄関から母親たちの話声が聞こえて、俺はリビングからそっと耳を澄ませていた。


廉はとっくに家に上がっていて、隼人と遊んでる。


「忙しいのね、仕事」


「そうなの。今日はどうしても休めなくて。ほんとごめんよ。もう行かないと」


「里穂ちゃんのことは大丈夫だから」


「ありがとう」


バタバタと走る足音が聞こえたと思ったら、すぐに静かになって里穂と母さんの声が聞こえてきた。


「おばさん、ごめんね。迷惑かけて」


「うんん、いいのよ。お布団干しといたから、温かいわよ」


「うん。ありがとう」


こほこほと聞こえる小さな咳が、隣の部屋に吸い込まれていった。


それから台所に戻って来た母さんと入れ替わるように、俺は里穂の元に向かった。