「修斗が台所に立つなんて、久しぶりぶりね」


「そうかも。でも俺、これがなかったら一生台所に立ってなかったかもしれない」


「そうね。修斗はサッカーしかしてこなかったし」


鍋やらお玉なんかを取り出しながら、背中の方から聞こえてくる母さんの声と会話をする。


家を出て、改めて家族のありがたさを知った。


寮では食事は出てくるけど、洗濯は自分でしないといけない。


それに加えて、チームの中で一番下っ端ってこともあり、チームの雑用なんかもこなす。


ありがとう、なんて素直に言えないから、その代わり家に帰ってくるときは必ず、今の自分の様子やチームのこと、とにかく何でもいいから親に話すようになった。


幸い寮から実家まで徒歩10分という近場なので、家にも帰って来やすい。


FCウイングのホームスタジアムも実家のすぐ近くだし、そう考えるとほんとに地元に就職したなって思う。


チーム関係者にも、今までいろんな選手がいたけどこんなに近くに実家がある選手なんていなかったぞとまで言われた。


「里穂ちゃん、相変わらず食べれないのね」


「ああ。でもこれだけは、さっき食べたいって言ったから」


「食べれるといいわね。里穂ちゃん」


それだけ言うと、母さんはリビングに戻った。