安楽死


「た、高山さん!!」


「何よ、人の名前を大声で叫んで・・・変な人ねえ」

高山はそう言うと、首を左右に振りながら塾の中に入って行った。


もしかして、塾から出て来るところを見られた?

鼓動が速くなり、額や手の平から汗が噴き出してきた。顔が引きつる。


高山は私が自分の身辺を調べている事に、気付いたかも知れない。

私は逃げる様にして、塾の前から全速力で離れた。



駅前まで辿り着いた時、胸ポケットのスマートフォンからメールの着信音が鳴った。


逃げてきた私は、反射的に周囲に視線を走らせる。このタイミングのメールに胸騒ぎを覚え、背中に冷たい汗が流れた。

私は兄からあの話を聞かされる前に、あのケータイ小説の更新分まで読んでしまっていたのだ。


まだ解読されていない、ケータイ小説に張り巡らされた韻の罠・・・

もしかすると、韻による催眠状態に陥るきっかけが、メールの文章にあるかも知れない。


小刻み震える手で、スマートフォンを取り出す。着信を知らせるランプが、手の中で光る。

暫くそのまま眺めていたが、意を決してスマートフォンの画面に触れた――