安楽死


「今日、田中君に書かせていたあのケータイ小説が、ついに完結したんだ。さっき全部読んだけど、あいつホントに文章が上手いよね。

あんなにムリな注文をしたのに、全部クリアしてこんなに感動的な作品を書くなんて・・・」


岸本は独り言の様に呟くと、金網を背にした。


「妹が逝って・・・
哀しみと罪の重さから、ここから何度も飛ぼうとしたけど、やっぱり、死ぬのは怖いな。

安息なんて嘘だ・・・


でも――」


岸本はスマートフォンの画面を数回押す。


「城川さんに、岸本が謝っていたと伝えてくれないか。

それに・・・
里川さん、君にもたくさん迷惑をかけたね。

ごめん。


やはり、死ぬのは怖いな――」



その時――

岸本のスマートフォンから、『死と乙女』が流れ始めた。


あっ!!

岸本は今、あのケータイ小説を読んだと、そう言ったんだ――・・・