安楽死


エレベーターに乗り5階で降りると、なぜかナースセンターが騒然としていた。

「な、何これ・・・?」

ナースセンターの中で看護師が慌ただし動き回り、少し奥の病室に医師が入って行く姿が見えた。

あの病室は確か・・・


ナースセンターから出てきた看護師を呼び止めると、何があったのか尋ねる。

「あの、すいません。
岸本さんの病室に行きたいんですけど」

看護師は驚いて私の顔を見詰めると、少し厳しい口調で問いただす。

「あなた、岸本さんの身内の方?」

「いえ、違いますけど」


看護師は沈鬱な表情で私から視線を外す。どうやら言葉を探している様子に見えるが、何も口にしない。

ま、まさか――!?

私はその看護師の腕を掴むと、身体を揺すった。

「岸本さんに、何かあったんですか?」

看護師は諦めた様に、周囲に聞こえない程の小さな声で答えた。

「ついさっき、容体が急変して心肺停止状態に――」


その看護師は周囲を見渡すと、再び急いでナースセンターに入って行った。