「あ、こ、こんにちは」
動揺しながら挨拶をする私を無視し、老婆の視線が手元の時計に釘付けになっている。
「その時計は、どうされたのですか?」
「は・・・時計?
ああ、この時計ですか?
その、近くの古物屋で見付けたんですけど」
私は老婆に見付けた経緯などは話さなかったが、怪しまれない様に、古物屋にあった事だけは教えた。
老婆は私の話しを聞き、少し落胆した様に感じた。そんな老婆の様子が気になり、私が尋ねた。
「この時計が、どうかしたんですか?」
老婆は私の方を向くと、昔のことを思い出す様に時計の事を話し始めた。
「その時計は、旦那様と奥様が初めて2人でコンサートを開いた時に作った物なんですよ。記念品として、親族や親しい友人にお配りになったのです。
誰かが手放し、それが古物屋にあるなんて、何だか哀しくて・・・」
そうだったのか・・・
そうだと知っていれば、もっと違う説明をしていたのに。



