学校を通り過ぎ10分余り歩くと、小高い丘の上に高級住宅地が見えてきた。
もう少しだ。
息を切らせながら坂道を登ると、他の地区とは明らかに風景が違っていた。
1区画が普通の住宅団地の5倍近くもあり、見た事もない様な大きさの住宅が建ち並んでいる。余りのブルジョアな光景に、思わず萎縮して立ち尽くしてしまった。
「こんにちは」
不意に声を掛けられ我に返ると、目の前をトイプードルを連れた上品な女性が通り過ぎ様としていた。
いけない、いけない。
「あ、あの、すいません。
岸本さんのお宅を探しているのですが、ご存知ありませんか?」
女性は立ち止まると、顔だけ私の方に振り向いた。
「岸本さん?」
「はい、有名な音楽家夫婦なんですけど」
「ああ、あのお宅ね。
それなら、ほら直ぐこの先に見えるあの白い家・・・あれがそうよ」
女性は、少し先の住宅を指で差して言った。
「ありがとうございました」
いつもより少し早足で、私はその家に向かった――



