安楽死


何も気付いていないフリをして、この場を離れた方が良いか?

私は右足を半歩下げる。


でも――

私がここで逃げ出してしまうと、橋詰さんやケータイ小説サイトの担当者が嘘を言った事になってしまう・・・

私の自分勝手な願いを聞き届けてくれた人達に、迷惑はかけられない。


「何をそんなに、ソワソワしているだ?」

田中が更に猜疑心を増した表情で、私を見詰めた。私の挙動は、明らかにおかしい。


マズイ・・・
このままでは、非常にマズイ!!

逃げる訳にはいかないなら、もう前に進むしかない。逆に考えれば、これはチャンスなんだ。これを逃すと、二度とこんな決定的なチャンスは訪れないかも知れない。

ここは人が多い駅だし、田中が犯人だとしてもムチャな事は出来ないだろう・・・


私は散々悩んだ挙句、ついに覚悟を決めた。