私は極度の緊張感で震えながら、メモに書いてある電話番号をプッシュした。


2度呼び出し音が鳴った後、受話器が上がった。

「――はい、夢文社編集部です」

「あ、あの・・・
橋詰様を、お願いしたいのですが」


電話応対した女性は、いかにもキャリアウーマンといった雰囲気で声に覇気があった。

「編集部長の橋詰ですね。失礼ですが、お名前は?」

「あ、はい。
里川と申します!!」


声を裏返しながら返事をする私を気に留める事もなく、耳元から保留音が流れ始めた。

編集部長って・・・
そんな上の人が、私の個人的な頼み事なんて聞いてくれるの?

常識的に考えて、有り得ない話だ。


20秒程して、低音で重厚な声の男性が電話に出た。

「もしもし、橋詰ですが」

「あ、あの・・・えっと」


言葉を探す私に気を遣い、橋詰さんは先に声を掛けた。

「里川さんだね?
あゆみちゃんから聞いているよ」