急いで振り返ると、老婆はまだ病院の前にある駐車場を、乳母車を押して歩いていた。
「あの、少しお伺いしたい事があるんですけど」
聞こえてないのか、老婆は全く反応しない。
私は追い掛けて行き、トントンと老婆の肩を優しく叩いた。
「すいません」
老婆はようやく気付き、振り返ると苦笑いしながら言った。
「ああ、私の事だったのかい?」
「あの、すいません・・・
この高山医院さんに、─あゆみ─という名前のお嬢さんがいらっしゃいますよね?」
あ、しまった・・・
余りにも唐突な質問に、老婆は明らかに怪訝そうな表情で私を見た。
「あ、私・・・高校の同級生で、忘れ物を届に来たんです」
苦しまぎれの言い訳をするが、老婆は態度を変えず私をジロリと見る。
ダ、ダメか?
そう思った瞬間、老婆の表情が一気に緩んだ。
「そうかい。ここが、そのお宅だよ」
ああ、やはり――
私の胸の中がザワザワと波打ち、自然と拳を握り締めていた。



