気付けば僕の左頬は鈍い痛みと熱を持っていて、折れた前歯が切れた口内の傷に触れては、ずきずきと痛んでいた。

僕が助けた男は、僕を殴り僕を蹴り、どうして死なせてくれなかったんだ、どうして助けたんだと散々喚き散らしてから、今度こそ死ぬために去って行った。


腫れた頬に触れると、痛い。

こんな痛みは初めてだった。
こんな、屈辱的で、理解不能で、意味の解らない、痛みは。


きぃぃぃ、と、甲高い列車のブレーキ音が、閑静だった住宅地に響く。

あの男は線路に飛び込んで死ぬことにしたのだろう。
このすぐ近くには、列車が通る橋があるのだ。


はた、と、僕は気付いた。

線路に人間が飛び込んだりなんかしたら、列車は脱線するかもしれない。
橋の上でそんなことになれば、落ちるのは遥か下の小汚ない海だ。