ビルの屋上から落下する影を視界の端に捉え、それが人間だと気付いたときにはもう、体は反射的に動いていた。


40階建てマンションの天辺。

そんなところから足を滑らせたら、どうなるか想像がつくだろうか。
地面に叩き付けられた瞬間には、潰れたトマトか、もしくは無惨にも砕き割られたスイカのように変わり果てた姿になって、意識を失うより先に命を失っていることは、目に見えている。


そんな絶望と諦めしか残らないような状況にある人を空中で軽々と担ぎ上げ、ゆっくりと、今頃はぺちゃんこになってへばりついていたかもしれない地面に両の足の裏で立たせたとき、僕は、自分で自分が誇らしくて仕方がなかった。

1人の人間の命を救ったのだ。

これぞまさにヒーロー。

映画やアニメの登場人物としては何よりも人々に愛されているだろう存在が、まさか実在して、そして自分がそれに助けられることになろうとは、今茫然としているこの人だって考えてもみなかっただろう。


彼にとってのヒーローなだけではない、僕は皆にとってのヒーローなのだ。

僕は僕が守るべき普通の人間よりも遥かに力が強いし、五感も運動能力も鋭い。
空だって飛べる。

気付いた時には既に正真正銘の、ヒーローだったのだ。