「時雨は“今”ここにいる」
「……ん」
本当に小さい、高めの声でしか答える事が出来なかった。
「本当は、とか無いんだよ。時雨は旅行に行かなかった。
事故に会わなかった。今俺の腕の中にいる。それが全てなんだよ」
それが……全て。
「“本当は”とか無いから。もしもは考えなくて良いんだよ」
「でもっ……」
でもっ、それでも……
「そんな事言ったら、俺もだろ?叔父さん達が出掛ける時、『俺も連れてって』って頼んだ。
“もし”その時叔父さんが俺を連れていってくれてたら……俺も今ここにいない」
ゆっくりと話す拓斗。
もし。
考えるなと言われても考えてしまうけれど、
考えてもキリが無い事なのかもしれない。
次から次にと浮び上がってくるから。



