「え?」
「離したら、時雨はどこかに消えるだろ……?」
その言葉に、胸が苦しくなる。
拓斗、わたしに消えてほしくないの?
ここに居てほしいって、思ってくれてるの?
……彼女がいるのに。
ダメだよ。
そんなこと、思っちゃ。
わたしはそっと右手を自分に絡んでいる拓斗の左手に乗せる。
ピクっと微かに反応した拓斗。
そのまま手を動かして……触れるのは薬指。
何も、つけてない。
「駄目だよ、拓斗。ちゃんと指輪してあげないと」
軽く握ってわたしは明るく言う。
拓斗がわたしの頭に埋めていた顔を上げたのが分かった。
さっきから気付いてた。
佐奈子さんの左手薬指にシンプルなリングがあったのを。
シンプルだった所を見ると、きっとあれはペア物。
なのに、拓斗の指にははめられていない。
きっとわたしの親のお墓参りに行くから気を遣って外してくれたんでしょう?
そういう細かい事を気にしてくれる優しい人だから。



