そこへ通され、わたしはどうすれば良いのか分からず入口で佇む。
すると後ろから伸びてきた手。
軽い振動と共にわたしはまたクールマリンの匂いに包まれる。
「……時雨」
胸の前で交差された腕に、力が入る。
「うん」
「帰って来たんだよな」
「……うん」
一時的に、だけど。
すぐに帰ってしまうけれど。
それを言ってしまうと拓斗が離してくれない気がしてわたしは頷く事しか言えない。
まるで、わたしの存在を確かめるかのようにギュッと抱き締めてくれる拓斗。
「拓……スーツ皺になっちゃうよ」
「構わない」
構わないって……。
「拓斗」
「……離したら、」
耳元で、聞こえる小さな声。



