車を走らせ始めて、すぐ。
音楽もラジオも流れない、誰も話そうとしない静かな車内で声を出したのは拓斗で。
「何で……」
どうして佐奈子さんを先に降ろすの。
確実にわたしの嫌だと思う方向へと進んでしまっているようで、ボソリと呟く。
その呟きでさえも耳に簡単に入ってくれて。
「その方がスムーズだからだけど?何か」
「いえ……」
有無を言わせない拓斗の言葉にわたしはこの車内から飛び出したくなった。
佐奈子さんがどこに住まれているのかは知らないけれど、
ルートで行けばその方が効率が良いのだろう。
だけど、佐奈子さんが降りれば気まずくなる。
出来ればわたしを先に降ろして欲しかった。
腕時計へと視線を落とせばまだ、お昼をちょっと過ぎたくらい。
この後2人でどこかに行く予定があったのかもしれないのに。



