帰ってまた泣くんだろうな……と。


「そう……ごめんね」

何故かトーンを落として謝る母さん。


「良いんです。結局拓斗はずっと時雨さんの事しか頭に無いんですから。……それじゃあ、お世話になりました」


「気を付けて帰ってね」


ドアの閉まる音。

その音に合わせて、俺は「ごめん……」と小さく呟いた。





ハァ、と息を吐く。


「―――拓斗」

息を吐いたのも束の間。

ハッとすれば階下の廊下に戻って来た母さん。


「ちょっと来なさい」


明らかに怒りの目をしていて、俺に一言言うとさっさとリビングに入っていく。


俺も、言われるがまま続いてリビングへ。

「これ……俺いらないから、どうぞ」



取り敢えず手を付けなかった俺の分のケーキを母さんの前に差し出す。

「さっきの佐奈子ちゃんが言ってた事……どういう事?あんた聞いてたでしょ」


ジロッと見てくる母さん。



「……佐奈子の言ったそのまんまだよ。やっぱり俺、時雨じゃないとダメだ」


こんな事、親の前で言うなんてかなり恥ずかしいけど。


でもそれでも言えるくらい時雨が大切なんだ。


「何で今頃急に……最近はずっと時雨ちゃんの事言わなかったじゃない」


「母さんには、言ってなかったもんな」

「何をよ」