……大学を卒業した後の事を聞いたけれど、
時雨はやっぱりこっちに戻ってこないつもりらしい。
それどころか、あの大切な思い出のマンションを売り払うつもりだと。
こっちに戻ってくればいい。
のに、俺と佐奈子が結婚すると思ってる。
……婚約した時の約束は大学を卒業するまでに時雨が戻って来なければ結婚する、だった。
だから、約束通り、婚約を破棄させてもらう。
自分の身の回りをすっきりさせてから……
もう一度時雨に話を付けに行く。
携帯の待ち受けで時間を確認しながら、
なかなか来ない佐奈子を待っていると。
一階で話し声が聞こえて、
俺はベットから起き上がって部屋を出た。
「拓斗、佐奈子ちゃん来たわよ」
「知ってる」
階段を降りれば、玄関で出迎えた母さんと、佐奈子。
バッチリメイクされて、髪は短いながらも毛先だけ軽く巻いていて、これで準備が長かったのか……と思う。
「見て。これ、佐奈子ちゃんが持ってきてくれたの」
「ケーキ?」
「そ。食べるでしょ?すぐ用意するから」
上機嫌でケーキの入った箱を持ち、
俺達から遠ざかっていく母さん。
「お手伝いした方が良いかな……?」
「嫌、俺が持ってくから。先に部屋行ってて」
いいの?なんて言う佐奈子を部屋に行かせてから、俺は母さんの元へ。
すでに箱から出されたケーキは皿の上に置かれていて、
母さんは飲み物を用意していた。
「はい。持っていきなさい」
お盆の上に置かれたティーカップ。
それを持って部屋を上がると、佐奈子はいつものように部屋のテーブルの前に座っていた。



