わ……カッコいい。


すぐに、目を奪われた。

周りの人は皆大学生になったって事で浮かれて茶髪にしてるのに、この人は目立つくらいの真っ黒。


立った瞬間に匂った香水の香も、彼にぴったりだと思った。


「……どうも。出身は南区。よろしく」


誰とも視線を合わせる事無く軽く頭を下げると直ぐに着席した。


盛り上がりつつあった空気が一瞬制止。

その後思い出したかのようにパチパチと拍手があったけれど本人は笑いもせずただソファーに背を預けて座った。

どこを見ているのか分からない。


ぼうっとしている瞳をしていた。


「名前は?」

「………」

本当だ。自己紹介なのに、名前言ってない。


誰かが聞いたけれど、答えない。

冷めてしまって、どうすればいいのか皆が顔を見合わせる。


「あ、コイツね、拓斗って言うの。気軽に呼んでやってー」

隣にいた男子が笑顔で代わりに言って、

皆は「拓斗、ね」と頭の中に記憶する。

……見た目と同じく、クールっぽいなぁ。



無口みたいだし。


髪が黒いからそう言う印象を持ったんだけれど。

と、見とれていれば私の前に差し出されるマイク。

差し出した本人…拓斗君は私の方を見ることなく腕だけで渡してきた。


それを受け取って、今度はわたしが立ち上がる。


「えっと、松石佐奈子です。出身は中央区です、よろしくお願いします」

一気に注目されて緊張からカッと顔が熱くなる。