そのまま先だって歩いて行こうとする七瀬の、浴衣から覗くその手を掬うように握る。
足を止めた七瀬の横に並び、歩幅を合わせて歩き始める。
七瀬は「あはは」と笑って、手を握り返してきた。
「そーんなに心配しなくても、七瀬さんははぐれませんのことよ?」
「食べ物に向かって一直線のクセに」
「失敬なー。食べ物に向かって一直線だなんてそんなイノシシみたいなことあるわけしまったリンゴ飴買い忘れちゃった!」
説得力が皆無すぎると思うんデスけど。
戻ろうかどうしようかと迷っているのか、立ち止まって呻く七瀬に、俺は目についた前方の屋台を指さす。
「わたあめならそこにあるけど」
「食べる!」
立ち直りが早い、というか、なんというか。
そしてやはりその屋台に一直線しようとする七瀬に笑う。
「やっぱ一直線だし」
言ってやると、七瀬は「むぅ」と口をとがらせて、少しだけ拗ねる。
かと思えば、握っていた手にぎゅっと力をこめてから、「大丈夫だよ」と。
「大丈夫だよ。はぐれないってば。だって、有架が手繋いでくれてるもん」
「ね?」と首をかたむけつつ俺を見上げ、得意げに笑う七瀬が、本当に好きで。
でも何が好きかとかどこが好きかとか問われれば、答えに困る。
“全部”って答えは、やっぱダメかな。
……とか考えてしまうのは、たぶんこの夏の暑さのせいで。
「……愚問だな」
俺はお返しと言わんばかりに得意げな微笑を浮かべてみせて、七瀬の手を強く握った。