夏も半ばに入る頃。
炎天下の中、駅に向かうと、すでに嬉しそうな表情を浮かべた七瀬が、落ち着かない様子でそこにいた。
腕時計を眺め、きょろきょろと辺りを見回し、むうと口を尖らせる姿をもう少し拝見していたかった、けど。
「あ、発見!有架!遅い!」
見つかってしまったからには、早足にせざるを得ない。
しかしながら、七瀬の方から駆け寄ってきたため、俺が歩く速度を変えたからと言って特に意味がなかったのは事実で。
「待ちくたびれたー」
「悪い。まさか30分も前から待ってるとは思わなかった」
「一本早い電車に乗れたから、早めに来ちゃった」
「来ちゃったじゃねェよ」
「なんですかその冷たい態度はー。久しぶりに会えたのにー」
「久しぶりっつっても数週間だけど」
「わかった。七瀬さん帰るね」
「嘘だって、帰んな」
踵を返そうとした七瀬の手を掴み、引きとめる。
すると七瀬はくるりとこちらを見上げ、嬉しそうに笑った。
『私、今度の日曜日そっち行くね!』
という七瀬からの突然すぎにもほどがあるお知らせ電話に、思わず『……なんで?』と返してしまった。
『“なんで”って、なんでって……』
『あー、ごめん。思わず』
『……そっか……。うん、あのね、今度の日曜日からちょっとだけヒマになるから、行きたいなーと思って』