俺が歩み寄ると、永瑠は顔も上げずに「ごめん」と言った。
名前も呼んでないのに俺だとわかったのは、やっぱり足音で、かな。
俺は何も言わずにしゃがみ込み、永瑠の言葉を聞く。
「迷惑かけてごめん」
「別に迷惑とか思ってねェよ」
「でも有架は、自分を責めるだろ」
変なとこ勘付かなくていいんだっつの。
「有架のせいじゃない。オレが間違っただけだから」
「…………」
「ホントは喧嘩するつもりじゃなかったんだ。ただ、トイレで泣いてたニーナちゃんに声をかけただけで……」
「……うん」
「“どうしたんだ”って聞いたら、ニーナちゃんは笑って“なんでもない”って言うだけで……でも、そしたら、外からあの2人の話声が聞こえてきて……」
「…………」
「“ニーナがフラれてくれてよかった”とか、“アイツバカでしょ”とか……なんか、あんまり覚えてないけど、そんな会話で……」
くっと、永瑠の喉が鳴った気がした。
「でもニーナちゃんは笑うだけなんだよ。“気にしないで”って、悲しそうに笑うんだ。……オレ、ムカついた。なんで友達にこんな顔させるんだって思った」
「……うん」
「そんで気が付いたら、あの2人の前に立って、なんか、いろいろ、酷いこと言ってた……」
「……そっか」
怒りの熱が冷めた今、あの2人の女子生徒に対しても申し訳なく思い始めているらしい永瑠。
俺はそんな永瑠の頭に手を伸ばし、ゆっくりと、その頭を撫でた。


