永瑠を庇うようにして、右手の甲で平手を受ける。
……間に会った。
安堵の息を吐き、驚いた様子で目を見開きこちらを見上げている永瑠に、俺は小さな声で「落ち着け」と投げかける。
それから振り返り、我に返ったような呆然とした表情を浮かべていた女子生徒を見下ろし、
「喧嘩で平手打ちは、中2にはちょっと早いんじゃないの?」
「え……いや、えっと……」
どう言い逃れようかと考えているのかわからないけど、女子生徒は平手打ちをしようとした右手を対の手で握って後ずさる。
その様子を見つつ、俺は微かに笑って、
「悪かったな」
口をついて出た謝罪は、女子生徒と、永瑠にも向けられていたのは否めない。
しかし永瑠がわかるわけもなく、何故謝ったのかと反論しようとしたのだろう開いた口。
けれど同時に、向こうから担任が走ってきたことで、その反論が言葉になることはなかった。
担任に連れられて行った2人の女子生徒と、永瑠。
その背中を見届けて居た俺は、ふと自分の足下に光るものが落ちているのを視界の端に捉えた。
しゃがみ込んで、草の中に埋もれたそれを拾い上げる。
しばらく見つめたそれを、ポケットに押し込んで、項垂れる。
後悔の溜息しか出なかった。
*****
担任から少し話を聞いた後、車の疎らになった駐車場へ向かった。
すでに他の生徒たちは帰ったのだとわかるくらい静かで。
夏とは言え、森の陰で夕暮れの日が当らない。
その薄暗い中に、永瑠はポツンと1人、車の傍の停車用の石に座って、膝に顔をうずめて居た。


