俺は、こちらを決意のこもった強い目で見上げるニーナの頭に軽く手を乗せ、小さく笑いかける。
「お前のせいじゃない。だから気にすんな」
俺のせいだから。
そう、言いそうになって、口をつぐんだ。
再び涙を零し始めるニーナは、たぶん永瑠が喧嘩をしたのは自分のせいだと思って、自分を責めているのだろう。
そうじゃない。
俺が永瑠の背中を押し過ぎたんだ。
だから永瑠は転んだんだ。
それだけの話だ。
講堂を飛び出し、建物の出入り口へと続く廊下を全力で走る。
こういう時の廊下は、やけに長く感じるから嫌いだ。
途方もなく長い距離を走り、ようやく出入り口へ辿り着いたような感覚で、けれどその感覚がどうだとか考えることなく、外へと向かう。
外にあるトイレの方向へ足を休ませることなくひた走る。
目的地へ近付くにつれ、風を切る音に混じって、誰かの怒声が響き始める。
「……んで……なんないの……っ!」
「……だろ……んだよ……っ!」
「なん……ってんでしょ……っ!?」
なんと言っているかはわからないけれど、声色と口調だけで相当な喧嘩になっているということだけは予測できた。
3人の人影が視界に映る。
怒声もより一層、はっきり聞こえるようになってきた。
「はあ!?なにあんたマジで頭おかしいんじゃねェの!?」
「それはお前等だろうがっ!」
「っつーか日頃から一匹オオカミ気取りのあんたにあたし等の何がわかんだよ?教えろよあははっ!」


