俺はいつまでも笑い終えない永瑠の頬をつねる。
見た目にそぐわず、よく伸びる。
「いだだだだ引っ張んなばかああ」
「そんくらい笑えんなら大丈夫だよな?」
「うるしぇえいだだ離せこらああ」
「その笑顔を普段見せりゃいいの」
「ムリだああ」
ひいひい言いだす永瑠から、溜息をつきつつ手を離す。
永瑠は伸びた頬を戻すように両手で顔を擦る。
それを見届けて、俺は回れ右をする。
「っつーことで、明日がんばれ」
「う、うぬ……」
「言っとくけど、“何もできなかったー”って泣きつかれるのはごめんだから」
「もはや強制だと!?」
「“がんばってみたけどムリだったー”っつーのは、受け付ける」
「……誰が泣きつくかよ」
「ふーん。ま、いいけど。んじゃ、おやすみ」
「お、おやすみ……」
永瑠の小さな声を聞きながら、ちょっと強制しすぎたか?と不安だったりしたんだけど。
でも永瑠には、もっといろいろ楽しんで欲しかったりする。
だって絶対もったいない。
……とか、思ってしまうわけで。
なんとなく、少し離れたところで振り返ると、永瑠はポケットから何かを取り出しているのが見て取れた。
それを口に入れたから、たぶんあれは、俺が朝渡した……。
俺はなんか笑えてきて、1人で小さく笑いながら、今度こそ永瑠に背を向けた。


