実際には、虫はずっと鳴いていたはずで。
けれどその鳴き声は、俺の耳には届いてこなかったんだろうと思う。
永瑠の言葉が、あまりにも難しかったから。
「……なんてな」
何も言わない俺に、永瑠は苦笑を混ぜた声を発した。
空から視線を下ろし、草むらを見下ろしながら口元を笑わせる。
「気にすんな。ちょっと言ってみただけだし」
「……や、気になる」
「はあ?」
「っつか、気にすんなって方がムリ」
1人でずっと過ごしていたのだろう永瑠が、初めて、“友達の作り方”を考え、そして俺に問うてきた瞬間。
それを無駄にしちゃいけないと思った。
だから、言う。
「永瑠は可愛い」
「んなっ……!?」
「面白ェし、バカだし、でも一生懸命」
「お、お、お前、どうした……!?」
「だから永瑠が、壁をなくせばなんの問題もないワケ」
「か、壁……?」
「お前は今、“自分はこんなだから”とかなんとか思って、壁作ってない?」
「…………」
「それがダメ」


