見たこともない、その表情。
暗い、どこか影のある表情。
よほど、話しかけようかとも考えた、けど。
「さて、準備に戻らなくちゃね」
すぐ傍に居た誰かの母親がそう言って離れて行ったのを合図に、全員が準備に戻り始めたため、俺もしかたなく準備に戻ることにした。
脳裏には、永瑠じゃないような、けれど永瑠の、あの輝きのない表情が、ずっと貼りついて離れなかった。
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「ねー、にんじんって皮むくよねー?」
「むくっしょー!」
「えー、ニーナむかないのー?」
「や、むくけどさー」
「ってかさー、今日の夜あんた告るんでしょー?」
「え」
「いい感じだったじゃーん。告っちゃいなよー」
「え、や、でもホラ、私なんか……」
「はあ?あんだけ良い雰囲気なんだからオッケーに決まってんでしょ」
「そうだよー」
「え、う、うん……?」
……ダダ漏れだっつの。
俺は火をつけるための薪を用意しながら、背後で包丁を握ってカレーを作る生徒の会話に、内心でそうつぶやいた。


