ロリーポップが不機嫌なワケ。





見たこともない、その表情。

暗い、どこか影のある表情。

よほど、話しかけようかとも考えた、けど。


「さて、準備に戻らなくちゃね」


すぐ傍に居た誰かの母親がそう言って離れて行ったのを合図に、全員が準備に戻り始めたため、俺もしかたなく準備に戻ることにした。

脳裏には、永瑠じゃないような、けれど永瑠の、あの輝きのない表情が、ずっと貼りついて離れなかった。




*****




「ねー、にんじんって皮むくよねー?」

「むくっしょー!」

「えー、ニーナむかないのー?」

「や、むくけどさー」

「ってかさー、今日の夜あんた告るんでしょー?」

「え」

「いい感じだったじゃーん。告っちゃいなよー」

「え、や、でもホラ、私なんか……」

「はあ?あんだけ良い雰囲気なんだからオッケーに決まってんでしょ」

「そうだよー」

「え、う、うん……?」


……ダダ漏れだっつの。

俺は火をつけるための薪を用意しながら、背後で包丁を握ってカレーを作る生徒の会話に、内心でそうつぶやいた。