身をかがめていた袮夏の腰辺りに踵落としを喰らわせ、とりあえず永瑠から離す。
よろよろと体勢を立て直した袮夏は、まるでギックリ腰をしたおじさんのように腰を押さえ、壁に手をついて「やっぱ2年経っても有架は有架やで……」とか嘆いている。
俺が俺で悪かったな。
「……そーじゃなくて。永瑠は女子だっつの。あと14歳の中学2年」
「世の中には不思議がたくさんやなあ……」
「なんかお前哀愁漂ってるけどできればそのまま逝ってほしい」
「夜な夜な枕元に立ったるからな!」
「塩袋ごとぶっ掛けるからな」
「死んでもその扱いとか俺どないしたらええねん……!」
素直に成仏すればいいと思う。
来世はミジンコになってくれたらもっと幸せだ。
切実にそう願いながら、俺はいまだに微妙な笑みを浮かべている永瑠へと視線を向ける。
「あー……永瑠、悪ィ、このバカが。悪気があったわけじゃねェと思う、たぶん」
「ちょ、たぶんてなんやねん!悪気とかあらへんって!マジやって!」
「へえ」
「コイツホンマひどすぎるんとちゃうの……!あ、っちゅーか、永瑠ちゃんごめんな!ホンマごめん!」
90度くらいに頭を下げて、頭上で手を合わせて謝る袮夏に、永瑠は苦笑を浮かべながら手刀を切る。
「や、別にいいですから。っていうか、間違えるのもしょうがない恰好してるし。気にしないでください、ホント」
「健気や……!」
「泣くな」
ぶわっと感涙しつつ目を腕で押さえたエセ関西人の頭をバシッと叩く俺。
けれど内心、なんとなく永瑠のことが気になって。
普通、性別を間違われたらもう少しショックを受けるとか、怒るとか、そういう感情表現があってもいいように思う、けど。


