「……朝っぱらからうるさいと思ったらやっぱお前か、有架」
憂鬱そうな表情でそう言うのは、寝癖がついたままの永瑠だ。
出てくるなら寝癖くらい直して出てこい。
……って、まあ永瑠のことだから、寝癖が付いていることさえ気付いていないんじゃないかとも思うけど。
俺はそんな永瑠に首を振ってみせ、右手の人差し指を伸ばして目の前を指し示す。
つまりは、袮夏を指さして見せた、ってこと。
「永瑠、違うから。うるさいの俺じゃない。コイツ」
「え、こいつ……?」
永瑠は黒縁眼鏡の下から寝ぼけ眼を擦り、俺が指さした方向へと視線を向けた。
それから硬直して、驚いたように瞬きを繰り返している。
どうやら、俺以外に人が居るということでさえわかっていなかったようで。
今頃になってあたふたと目を泳がせ始める永瑠に、俺は内心でちょっと笑う。
「え、あ、は、はじめまして……」
永瑠は小さい声でそう挨拶しつつ、おずおずと頭を下げる。
対する袮夏はと言えば、
「おー!はじめまして!あ、俺有架のダチで袮夏言いますー!よろしくな!」
と、朝っぱらからテンション高く右手を持ち上げて挨拶を返すわけで。
初対面の人と挨拶することに慣れていないらしい永瑠は、また頭を下げている。
「あ、えっと、永瑠です……よ、よろしくお願いします……」
「永瑠くんな!っちゅーか、そんなかしこまらんでもええねん!楽しくいこやー!」
……ちょっと待て。
コイツ今さらっと“永瑠くん”って言わなかったか。


