いろいろな意味でクラクラしてくる頭を右手で押さえつつ、俺は人の服を掴んでいまだに喚いている永瑠から明後日の方へと視線を投げる。
……未花子さんたちに挨拶しにきただけなのになんでこんな目に遭ってんの俺。
とてつもなく帰りたくなってきた俺に、永瑠は頬だけ赤く染めてその他は真っ青と言う実に器用な顔色のまま、
「あのな、違うんだ……!オレが言いたかったのは“オレの学校の夏休み行事に有架も付き合ってくれ”ってことなんだ!ホントだからな!」
「わかったって。わかったから手離せ、頭痛ェから」
いつまで経っても落ち着かない永瑠の手を掴み、服から離せと促す。
すると、永瑠は一瞬硬直し、慌てた様子で俺から離れる。
自然、永瑠の手を掴んでいた俺の手は振り払われる形になって、俺は無意識の内に眉をしかめてしまっていた。
永瑠は何故かこちらを見ずに、「ご、ごめん」とつぶやく。
なんとなく顔色が回復してきた、いや、むしろちょっと赤いような気がする永瑠に、俺はなんでコイツ赤くなってんのと思いながらも「別にいいけど」と答える。
それから話を戻すように、
「で、なんだっけ。行事?」
そう聞いた俺に、永瑠は喚いてズレていた眼鏡を両手でいそいそと掛け直しながら頷いた。
「う、うん。行事」
「なんの行事?」
「キャンプ」
ちょっとゲンナリした。
「……なんで俺なの」


