俺としては、別にすぐ隣の家だし、時間なんかの心配もしなくていいわけだから、お言葉に甘えさせてもらおうかとも思った、んだけど。
「やっダメだ!」
俺が頷こうとしたまさにその時、完全に復活した永瑠が、突如そう声を上げた。
かと思えば、頭の上に乗ったままの俺の手を掴む。
あ、しまった。
「何がダメなの?」
いままで微笑を浮かべていた未花子さんが、少しだけ眉を八の字にして、永瑠へと顔を向ける。
永瑠は何故かハッとしたように肩をビクつかせ、ソファの背もたれ越しに英璃を見た。
英璃は何も言わずに永瑠を見ているだけ。
「……え、えーっと、アレだ。オレと約束があるんだよなっ有架!」
「は?」
「だからご飯はいい!部屋行こう、部屋!」
永瑠の突然すぎる言葉に疑問符を浮かべる俺なんて関係なしに、永瑠は掴んだ俺の手を引っ張ってソファから立ち上がる。
引っ張られたからにはこちらも立ち上がるしかなく、俺はしかたなしにソファから腰を上げた。
そのまま部屋へ行こうとする永瑠を引き留めるように俺は一度立ち止まり、振り返って、残念そうな顔を浮かべている未花子さんに「すみません」と一言謝る。
それから引っ張られるがまま永瑠の部屋へと足を向ける。
まあ、永瑠も話したいことがあるみたいだし、俺も聞かないまま帰るのはちょっと気が引けたので。
「……有架」
部屋に入ってドアを閉めると同時に、永瑠は手を離してこちらに向き直り、少し怒ったような声色で俺の名前を呼んだ。


