永瑠は穏やかな表情で、迷いのない口調でそう言った。
「ロリーポップ、初めてくれたのって、実瑠が居なくなった後だったよね」
静かな声で語り出す永瑠。
そういえば、そうだっけ。
実瑠が死んで、泣くこともなく、ただ放心状態だった永瑠に。
実瑠の仮面を被った時の永瑠に。
ポケットに入っていたロリーポップを渡したのだ。
「それが、わたしにはすっごい救いだった」
「…………」
「“永瑠、これあげる”って」
「…………」
「“永瑠”って呼んでくれたことが、一番の救いだった」
救ったつもりなんかなかったのに。
ただ、永瑠は永瑠だと思っていたからって、それだけの理由。
けれどそれが、永瑠を支える小さな希望になっていたのなら。
俺も少し、救われるかもな。
「……だから、ロリーポップが好きだって嘘ついた」
「……そか」
「そうだよ。わたしだけにくれるのがうれしくて、名前呼んでくれるのがうれしくて。有架がウチに来てくれるのいつも待ってたから。足音で有架が来たっていうのもわかるようになっちゃったんだよね」
「……そりゃすげえ」
なんで足音でわかるのかって疑問だったけど、なるほどな。
だから夏の初め、永瑠の部屋のドア開けた時。
辞書が飛んできたってワケね。


