「……永瑠」
無意識に名前を呼ぶ。
呼ばれた本人、永瑠はこくりと一度うなずいた。
「はい、永瑠ですよ」
「……わかってるけど」
「だよね。ってか、お隣よろし?」
「……どうぞ」
俺が少し横にずれると、永瑠は「どーも」と、隣に腰を下ろした。
永瑠は何も言わずに、じっと広場にある噴水を眺めている。
もしかしたら、地面を歩く鳩を見ているのかもしれない。
わからないけれど、とにかくじっと、前方を見据えていた。
静かに、風が吹く。
永瑠の短い髪の毛が、少しだけ揺れた。
「……泣いたでしょ、有架」
「…………」
「涙。跡、ちょっとついてる」
「……そォかよ」
「目もちょっと赤い」
「…………」
「ね、泣くとさ、甘いもの欲しくなんない?」
永瑠は言いながら、服のポケットに手を入れる。