たくさんの人が行き交う街。
その駅の前。
広場のようなそこ。
木陰になっているベンチに座って、どれくらいだろうか。
そろそろ夏が終わるというのに、いまだに鳴き続ける蝉が騒がしい。
なんとなく見上げた空は、濃い青。
喧嘩売ってんのか。
めちゃくちゃ晴れやがって、コノヤロウ。
……なんつって。
むなしいような、切ないような。
なんとも言えない気持ちで、空を見上げていた俺の耳に、その時。
「そこで黄昏てるおにーさん。お隣いいですか?」
そんな声が届いた。
聞き慣れた声だ。
小さな頃から聞いてきた声だ。
俺は青い空から視線を外す。
声の方へと顔を向ける。
短い黒髪に、飾りつきの黒縁眼鏡をかけた、ちっこい人影がそこに居た。
服装は相も変わらず、モノクロで。
けれどその表情は、カラフルだった。
見たことないほど、晴れやかだった。