停車した電車。
七瀬の目の前で、ドアが開いた。
彼女の潜るドア。
俺の潜れないドア。
ゆっくりと、七瀬は足を踏み出す。
もう追いつけない、一歩。
大きすぎた、一歩。
そしてドアを、潜った。
そのまま少しうつむいた七瀬は、つたない動きで、こちらを向いた。
顔を上げた、彼女の瞳と向かい合う。
見つめ合う。
なんて声をかけたらいいかわからない。
何を言っても違う気がするんだ。
“頑張れよ”とか。
“泣くなよ”とか。
たぶんそんな。
そんな言葉じゃない。
本当は、抱きしめたい。
強く強く、抱きしめたい。
息もできないほどに、抱きしめたい。
でもきっと、離したくなくなってしまうから。
もう、離せなくなってしまうから。
そんな答えは、間違ってるから。
だから、抱きしめたくて震える手は、拳を握って。
彼女の綺麗な、瞳を見つめて。
笑って。
言うんだ。


