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少しだけ霞みがかったような。
朝の光が照らす、駅までの道を並んで歩く。
お互いの手は、触れそうで触れない。
荷物は七瀬が自分で持つ。
『もうこれくらい自分で持たなきゃ』
と。
赤く腫れた目でそう言って、七瀬はぎこちなく笑った。
それはたぶん、彼女なりの決意なんだろうと思った。
だから俺は、『そっか』とだけ返した。
きっともう、俺がしてやれることなんてないから。
せめて、と。
歩く歩幅は、七瀬に合わせた。
それって結構、難しいんだぜ。
俺とお前の歩幅、どれくらい違うか知ってる?
知らないだろ?
いいよ、知らなくて。
俺がちゃんと知っておくから。
こっそり歩幅、合わせておくから。
だから七瀬は、七瀬らしく歩いていけばいいよ。
そのまま、まっすぐ。


