それは本当のことだった。
全部、しっかりと、覚えている。
目を閉じればすぐそこに、七瀬の笑顔が浮かぶほど。
それくらいずっと、一緒に居たんだ。
一緒に居たんだよ、七瀬。
「……ありか……っ」
七瀬の、聞き慣れた少し高い声が、俺を呼ぶ。
ゆっくりと持ち上がった顔。
瞳も、頬も、髪の毛も、大粒の涙で濡れていた。
その、流れる涙を、指で掬った。
この涙を拭いてやれるのは、たぶんもう、これで最後。
「……離れたくないっ」
涙で掠れた、七瀬の声。
彼女の細い、華奢な手が、涙を拭う俺の手を握った。
その手は、震えていた。
「……ホントはっ、離れたくないよっ」
空いている方の手で、止まらない涙を拭いながら。
七瀬は、嗚咽の混じる声で、そう言った。
苦しそうに、そう言った。
ぎゅっと。
俺の手を握る細い指に、力が籠められる。
震えて、上手く握りしめられず、落ちてしまいそうな手に。
何度も、何度も。


