「……七瀬、顔上げて」
「……やだっ」
「大丈夫だから」
「だって、泣き顔なんてっ、覚えててほしくないっ……」
「覚えてたい」
「…………っ」
「俺は覚えてたいよ」
「…………どうして……っ」
「好きだから」
躊躇いなく、そう言えた。
七瀬の息が、一瞬、微かに止まった。
そしてまた、酸素を吸う音が聞こえて、それに合わせるようにして、俺は言う。
「……怒った顔」
「…………っ」
「膨れっ面した顔、拗ねた顔、悩んでる顔」
「…………っ」
「真剣な顔、うれしそうな顔、照れた顔、笑った顔」
「…………っ」
「全部覚えてる」
「……あ、りか……っ」
「あと泣き顔、覚えてないんだよね」
「…………っ」
「だから、顔、上げて」


