なんで、こんな、好きなんだろうな。
そのワケを探そうとしても見つからない。
もしかしたら、明確な理由なんてないのかもしれない。
七瀬が“七瀬”だから。
だから、好きなんだろうさ。
「……不思議だなあって、思う」
つぶやくようにそう言い、七瀬は柵に置いた手の上に頬を乗せ、街を見下ろした。
夜になってもいまだ煌々と光る、街並み。
そんなに都会ではない街は、けれど星を隠すのには十分で。
その輝きを、七瀬の瞳は見つめていた。
「すごーく、不思議だと思う。偶然とか、必然とか、そういう言葉じゃ表せない気がするんだよね」
「…………」
「私が、有架に出会ったこと」
「……うん」
「なんで出会えたんだろうねーって、思わない?」
「そうだな」
「あの時、私がデザインに悩んでなかったら、画用紙持って中庭に散歩に行こうなんて思わなかったし。その時鉛筆忘れちゃって、画用紙置いて戻らなかったらって」
「うん」
「戻ってきてる時に風が吹いて、画用紙飛ばされなかったら。そして中庭に、キミが居なかったらって、ね?」
“不思議だよね”と、七瀬は笑った。


