「……初めて会ったの、中庭だったよね」
ペットボトルから顔を上げ、月を見上げて七瀬は言う。
……あぁ、そういえば。
「中庭で、七瀬が画用紙ばら撒いてたんだっけ」
「ばら撒いてないもん風で飛んじゃったんだもん!」
「普通さ、紙を置いとくときって、飛ばないように上になんか乗せると思うんだけど」
「ちょっと急ぎの用事があって忘れてたの!」
その散らばった画用紙が、俺の足元に舞い落ちてきたんだ。
なんだろうと手に取ったのと同時。
「七瀬、すっげえ勢いで走って来たよなー」
「だって焦ってたんだから!いろんなデザインとか描いてた画用紙だったもん」
「そうだったな」
「うん。それでさ、私が走って行って“すみませんありがとうございます!”って言ったら、有架すっごいどうでもよさそうな顔で“別に”ってさー」
「……だっけ?」
「だよだよ!“うわすごいドライアイスみたいな人”って思っちゃったー」
「悪かったなドライアイスで」
「そんなドライアイスな有架クンですが、実はとっても素敵な心してるんだよね」
そう言って、サイダーを一口飲み、こちらに渡してくる七瀬は笑顔だ。
どこが素敵なんだ、どこが。


