……あ、夏の終わりの風だな。
と、なんとなく思った。
七瀬はその風を吸い込み、吐き出し、そして俺を見た。
「ほら、風気持ちいいから、ベランダで飲もー」
そう言って、七瀬はベランダに出ていく。
その後に少し遅れて、俺もベランダへと出た。
柵の上に腕を置き、寄り掛かるような体勢で夜空を見上げる七瀬の隣に向かい、同じような体勢で俺も夜空を見上げた。
街の明かりで星はあまり見えない。
でも月は見えた。
少し不格好な月だ。
「月、明るいねー」
「そうだな」
「あ、サイダー、お先にどうぞ?」
「いえいえ、お先にどうぞ」
「あはっ、なにそれー」
「レディーファーストってヤツ?」
「あははっ、うざいー!紳士似合わないー!」
「うるせー」
「ふふー。じゃあそんな素敵紳士な有架クンのお言葉に甘えて、お先にいただきまーす」
「どうぞ」
その言葉のあとに、隣からプシュッと爽快な音が聞こえた。
七瀬はうれしそうに笑う。


