そのまま“くんくん”と犬のような呼吸音をさせたかと思うと、
「うん、いい匂い!有架の匂いー」
なんて言って、七瀬は「えへへー」と笑いながら顔を上げた。
……あー、もうなんつーかさ。
なんで今、そういう可愛いことするかな。
離れらんなくなったら、どうすんだよ、コノヤロウ。
とか思ってしまったけど、それは顔に出さないように、
「……そりゃよかった」
とだけ言っておいた。
七瀬はもう一度ニコッと笑うと、「あ!」と何かを思い出したような声を上げた。
「そうだ!ねえねえ、ちょっと冷蔵庫開けさせてもらってもいいかな!?」
「別にいいけど」
「ありがとー!」
返事を聞くや否やキッチンへと入っていった七瀬はハンパない瞬発力の持ち主だと見た。
冷蔵庫を開ける七瀬の後ろ姿を、俺はカウンターに寄り掛かって見つめる。
何をしているのかと思いきや。
「はっけーん!」
という声とともに、七瀬は何かを手に振り返った。
その手に握られていたものを見て、俺は思わず呆れてしまった。


