「……どうぞご自由に」
お返しに軽く丁寧語で言うと、永瑠は口を尖らせて俺を睨みんだ。
からかったことがわかったらしい。
けれど握った服の裾を離すことはしなかった。
そのまま、一歩足を踏み出す。
決して軽やかではない足取り。
重たい足取り。
しかし、迷いのない足取り。
短いような、長いような、家への道のりを歩む。
そして辿り着いた、その場所。
足を止めた、永瑠の視線の先に。
俺の両親、七瀬、英璃、そして、
「……お母さん、お父さん……」
永瑠の、両親が居た。
旦那さんに支えられるようにして立っていた未花子さんが、顔を上げる。
虚ろな瞳が、永瑠を捉える。
瞬間、光を灯す。
「……瑠」
ふらつきながらも、未花子さんがこちらに足を踏み出す。
微かに我が子を呼んだ声は、上手く聞き取れないほど弱々しく。
永瑠は、そんな母親を見つめて動けないでいる。
自分が呼ばれたのか、実瑠を呼んだのかわからなかったからだろう。
けれどその迷いは、一瞬で砕け散った。


