それは、今まで泣けなかった分の涙。
それは、ずっと抱え込んでいた涙。
それは、“永瑠”として流す、初めての涙。
――それは、きっと産声に似ている。
茜色の空の下。
流れる川のその中で。
生命(いのち)を奪った、その場所で。
ひとつの生命(いのち)が、孵る音。
ハロー、永瑠。
久しぶり。
会いたかったぜ、コノヤロウ。
「……おかえり、永瑠」
抱きしめながら、そう云った。
それが今、正しい言葉なのかどうかなんて、バカな俺にはわからないけれど。
でも云った。
そう、云いたかったのだ。
腕の中で、何度も頷く気配がした。
「……ただいまっ」
涙で濡れた、か細い声。
けれど、しっかりと耳に届いた声。
永瑠が孵って、初めての声。
この声も、俺は忘れないんだろう。
たぶん、きっと、ずっと。


