「……たぶん、永瑠にヒビ入れたのは、俺だよ、英璃」


昨日のことを思い出す。

涙を流す永瑠の姿が脳裏に浮かんだ。

ヒビを入れてしまったのは、俺だ。

なのに、俺が助けるって、とてもおかしな話である気がしたのだ。

けれど英璃は、目を逸らさない。

それどころか、キッと強く、その瞳に俺を映した。


「……じゃあ直せよ」

「…………っ」

「壊したんなら直せよっ!修理しろよっ!姉ちゃん助けてくれよっ!有架兄ちゃんしか居ないんだからっ!姉ちゃんが有架兄ちゃんの声で生き返るのは、有架兄ちゃんが、姉ちゃんを“永瑠”として見てくれてたからなんだよっ!わかれよバカッ!!」


――キィン

耳が鳴り、脳が揺れて、ハッとする。

電流のようなものが、一瞬、全身を巡った。

……バカ。

あぁ、ホントに、何やってんだ、俺。

バカじゃねェの。

過去を振り返るな、今日を見ろ。

否、前を見ろ。

迷うのは、死にたくなった時だけで十分だ。

……まだまだ、俺もお子様だよ、永瑠。

メンドクセェよな。

呆れるほどに。

笑えるほどに。