ロリーポップが不機嫌なワケ。





「……けど、昨日、姉ちゃん泣いて帰ってきて……ずっと朝まで泣いててっ……僕にも理由教えてくれないし……どうしたらいいかわかんないしっ」

「…………」

「そしたら、お母さんが、朝、“実瑠、どうしたの”ってさ……姉ちゃん、“違う、実瑠じゃなくて、永瑠だ”って言って……っ」

「…………」

「でもお母さんは、“永瑠ちゃんは、もう居ないのよ、実瑠”って……そしたら、姉ちゃん、暴れだしてっ。“実瑠って呼ぶな”って……」


『実瑠じゃない!オレは永瑠だ!死んだのは実瑠だ!永瑠は、オレはここだよっ!ここに居るんだよ!生きてるよ!生きてるんだよ!ダメなのかよっ、そんなに実瑠がいいかよっ……オレは……っ』

“永瑠は、生きてちゃダメなんですかっ……”


写真立てを、家族を壊しながら、自らも壊れていく永瑠が、そこに居たのだ。

崩壊していく大切なものたちを、辛うじて繋ぎ止めていた、“実瑠”と言う名の永瑠が。

自分を殺し、仮面を被ってまで、大好きな家族を守ってきた永瑠が。

たしかに、そこに居たのだ。


「……姉ちゃんは、たぶんきっと、もう疲れたんだよ……っ」


零れる涙を拭きながら、英璃は顔を上げる。

顔を上げて、赤くなった目で俺を見た。

真剣な目で、俺を見つめた。


「……有架兄ちゃん、姉ちゃんを助けてあげてよっ」


その言葉に、一瞬たじろいでしまう俺が居た。

今度は、俺が自嘲する番だった。